花盗人も罪になる
紫恵との電話を切った後、逸樹は大きくため息をついた。

かろうじて店内に入ることは免れたが、まさかあんな店に連れて行かれるとは思いもしなかった。

飯塚主任も岡本主任も、なんのためらいもなくあの店に入ろうとしていた。

他の人は結婚してからも妻に隠れてあんな店に出入りしているのだろうか?

お金を払ってまで見ず知らずの若い女といやらしいことをしたいなんて、自分には考えられないと逸樹は思う。

風俗とか浮気とか不倫とか、そこに愛もないのに快楽を求め合う体だけの関係なんて馬鹿げてる。

キスしたり抱きしめたり、触れ合いたいと思うのは愛する紫恵だけだ。

もちろん紫恵にだって他の男は指一本触れさせたくない。

もしも紫恵が他の男と……と考えただけでも怒りで身震いがする。

そういえば近々同窓会があると紫恵が言っていた。

例の元カレや昔のクラスメイトに迫られたりはしないだろうか?

もしそんなことがあっても、紫恵はキッパリと断るだろうか?

紫恵に限ってそんなことはないと思うが、男女の仲なんていつどうなるか誰にもわからない。

逸樹はようやく、紫恵が不安がっていた気持ちがなんとなくわかった気がした。

結婚して6年以上経った今でも、逸樹は紫恵に恋をしている。

もし子供がいたなら、二人の関係はまた違うのだろうか?

それでも紫恵を愛していることに変わりはないはずだ。

少なくとも、悪びれもせずあんな店に入ろうとしていたあの二人のように、妻をないがしろにして別の女を求めたりはしないだろう。



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