花盗人も罪になる
小さなしこり
金曜の夜、逸樹が大阪から帰ってきた。
お土産は大阪銘菓や冷凍のたこ焼き、ご当地の面白いストラップなど、こちらではなかなかお目にかかれない珍しいものばかり。
5日間目一杯仕事をして疲れた様子の逸樹は、帰るなり紫恵を抱きしめて、会いたかったと言いながら頬ずりした。
久しぶりに紫恵の作った夕飯を食べた逸樹は『やっぱりしーちゃんの作った御飯が世界で一番美味しい』と満足そうに笑った。
逸樹がお風呂に入っている時、紫恵は逸樹が持ち帰った出張中の洗濯物を仕分けていた。
5日分のシャツや靴下などを洗濯機に入れている時、一枚のワイシャツを手に紫恵は眉をひそめた。
ワイシャツの袖に、ファンデーションと口紅のような物がついている。
一体どこでこんな汚れをつけて来たのだろう?
満員電車なのか、それとももっと違う場所なのか。
逸樹が何も言わなかったところを見ると、きっと逸樹本人はこの汚れに気付いていないのだろう。
気付いていたらきっと逸樹の口からその理由を言うはずだし、言わないのは本人が気付かないうちについてしまったからか、もしくは紫恵に言えないような理由だからなのかもしれない。
紫恵は洗濯機の前で腕を組み、口をへの字にして首を傾けた。
一体何があったのだろう?
逸樹はそれを正直に話すだろうか?