花盗人も罪になる
夫婦二人きり
玄関のドアを開けると、大好きなカレーの匂いがした。
ドアの開く音に気付いた妻の紫恵が小走りに玄関へやって来て、夫の逸樹を出迎えた。
「おかえりなさい」
「ただいま。今日カレー?」
「うん、今日はいっくんの大好きなビーフカレーだよ!」
「やった! しーちゃんのカレー、めちゃくちゃうまいもんな」
結婚7年目になった今も、恋人同士の頃のように呼び合っている。
子供がいないので、お互いの呼び名が変わることがなかった。
「いっくん、おかえりなさーい」
リビングに入ると、姪の希望が逸樹の足元にしがみついた。
「ただいま。ののちゃん、今日はお泊まり?」
「ううん、ママお仕事終わったらお迎え来るって」
希望は3歳にしては口が達者でしっかりしている。
希望の母親は紫恵の5歳上の姉の心咲、バツイチのシングルマザーで、バリバリのキャリアウーマンだ。
仕事で遅くなる心咲に代わって紫恵が保育所へ希望を迎えに行き、夜まで面倒を見ている。