花盗人も罪になる
心咲が慌てて玄関を出ていくと、逸樹は大きなため息をついた。

仕方がないこととはいえ、紫恵を追いかけるタイミングを逃してしまった。

ほぼ入れ違いだったのに心咲と会わなかったということは、紫恵は階段を使って下に降りたのだろう。

紫恵はまだ一人で泣いているだろうか?

今すぐ電話をしてみようとスマホを手に取ろうとすると、希望が甘えた様子で逸樹に向かって手を伸ばした。

「いっくん、だっこしてー」

「え? ああ……うん、いいよ」

逸樹が抱き上げると、希望は嬉しそうに逸樹に抱きついた。

「ののねぇ、いっくんにいっぱい会いたかったよ」

素直に自分の気持ちを言葉にできる希望が羨ましいと思いながら逸樹は苦笑いを浮かべた。

親じゃなくてもこんなに慕ってくれているのだと思うと、やっぱり嬉しいと逸樹は思う。

「ホント? 俺もののちゃんに会えなくて寂しかったよ」

「寂しかったの?」

希望がなにげなく言った一言が、水曜の夜遅くに電話した時の紫恵の言葉と重なった。

「うん……寂しかったよ。すごくね。会いたいなーって毎日思ってた」

希望に言った言葉は、紫恵を想っていた逸樹の気持ちだった。

「しーちゃんも毎日寂しいって言ってた。早くいっくんに会いたいねって」

「うん……そっか。俺もだ」



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