花盗人も罪になる
その頃公園では、りぃのリードを手にした希望が楽しそうに池の周りの遊歩道を歩いていた。

逸樹はその後ろを香織とならんで歩く。


公園に着いて希望がブランコで遊んでいると、香織がりぃを連れてやって来た。

希望が楽しみにしているのを知っているから来てくれるのだろうが、逸樹はなんとなく気が重かった。

もしかしたらこれからも毎週末ここで会うのだろうか?

ただ散歩をしているだけでも、もし紫恵と自分が逆の立場なら、紫恵がムッとする気持ちもわからなくはない。

けれど香織に『ここにはもう来ないで』と頼むのもおかしな話だ。

紫恵のいないところで香織と会うのが紫恵を不安にさせるのなら、今度は紫恵も一緒に来ればいいのかもしれない。



香織はさっきから逸樹の様子をそっと窺っている。

なんだか難しい顔をしているし、何か考え込んでいるように見える。

「村岡主任……どうかされましたか?」

逸樹はハッとして香織の方を見た。

「あ……すみません、ちょっと考え事を……」

仕事のことでも考えているのだろうか?

逸樹は出張から帰ったばかりだし、少し疲れているのかもしれない。

「そういえば……出張お疲れ様でした」

「毎日忙しくてホントに疲れましたよ」

仕事よりも疲れたのは、先輩たちにあの店に連れ込まれそうになったことだなんて、香織は知るよしもない。


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