花盗人も罪になる
「僕が出張に行ってる間、何か問題はなかったですか?」

「雑誌で紹介されて予想以上に売れ行きが良かった商品の在庫が尽きかけたんですけど、工場に生産を急かしてなんとか間に合いました」

「そうですか。それは良かったです」

仕事の話をしていると、会社にいる時のいつもの逸樹だと香織は思う。

会社にいる時の逸樹を意識したことは一度もないのに、ここで会う逸樹にドキドキするのはなぜだろう?


それは大輔と知り合った頃の気持ちに少し似ている。

付き合いだしてからは、それまで見たことのなかった意外な一面をひとつ知るたびに、どんどん大輔を好きになった。

大輔と一緒にいると幸せで、ずっと一緒にいたいと思った。

遠距離恋愛になってからは、会いたい時に会えないのがつらかったけれど、会えると以前の何倍も嬉しかった。

相変わらず大輔からの連絡はない。

最近はもう、香織からはまったく連絡していない。

香織がいくら会いたいと思っても、大輔はもう同じように会いたいと思ってはいないのかもしれない。

そして逸樹のことが気になっていると自覚してからは、なんとなく後ろめたさも手伝って、大輔に連絡するのをためらっている自分がいる。

大輔はもう会えないのが寂しいとか、早く会いたいという気持ちはなくなってしまったのだろうか?


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