初めての相手は無愛想上司
『わわぁっ』
椅子ごと転びそうになるのを
なんとか持ちこたえた
『何をするんですかっ』
そう言うと、一つにまとめた髪が解けた
犯人は伊藤さん
ヘアゴムを摘んで私に渡してきた
「桜庭さん、意外です」
何を言っているんだと
また髪を一つに束ねようてしたら
伊藤さんが私の耳元で囁いだ
「キスマーク、ついてます」
…は?
何を言っているんだと
伊藤さんを凝視すると
ニコニコしながら
伊藤さん愛用の手鏡を私に渡してきた
ココ、と指をさす
その指先はうなじの下、
髪を上げたら丸わかりだ
『げっ!な、な、なんで?』
いつ?
どこで?
だれがっ!?
パニックだ
疑問しか頭浮かんでこない
「返却」
そんなパニック中
私たちの前に現れた彼