初めての相手は無愛想上司



「何をしている」


その声に身体がビクッと反応した
コツ、コツと
近づいてくるのがわかる

ポストへ入れようとしていた手は
動かすことが出来ない



どうしよう、


まさかこんな時間に帰ってくるなんて
思っても見なかった


顔の横からすっと腕が伸び
私の手から封筒を取り上げた


あっ、と思ったが抵抗すら出来ない
空になった手を
そのままお腹の前へと動かす
そして微かに震えている
それを抑えたくて
ギュッと手を握った



ビリビリ、と後ろの方から聞こえてきた
変な汗が背中を伝う


何も言ってこない
何も聞いてこない
沈黙が続く中、すっと腕がまた伸びてきた


ガタゴトと大きな音がした
ゆっくり目を開けると
郵便物がいっぱいだったポストは
綺麗さっぱり空になっている
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