精神病質者ーサイコパスーの異世界譚
プロローグ
 そこは暗く湿った岩の腹の中だった。
 なぜか泥だらけの公立高校の制服を着た多綱由は、軽い猫背で立ったまま、辺りを見回す。
 あれ、高校への通学路を歩いてたはずなんだけど…。
 さっきまで自分がぼーっとしていたことは自覚がある。朝は苦手なのだ。
 洞窟…みたいな場所だな…。
 まどろみのような倦怠感が晴れてくると、徐々に状況が判断できてくる。
 通学路…から…洞窟
 「は!?」
 ぼーっと通学路を歩いてたら洞窟に入ってました…!?あり得ない。僕が歩いていたのは東京のど真ん中だ。洞窟でなく、怪しい店の方がまだ説明がつく。
 遭難、行方不明。
 自分の状況を表す言葉を思いうかべる。その言葉の先にあるのは…。
 「死ぬぅ!!??」
 「ここ、どこだぁぁぁぁあああ!!?」
 全身から発汗し、手足の関節を曲げもせずバタバタと動かしながら、半泣きで叫んだ。
 「ダンジョンだ」
 突然の男の声に反射的に振り替える。
 人がいたという安堵、高校生にもなって泣き叫んだ羞恥が、由を襲い、
 その男に本当に襲われた。
 脇腹に突き立てられたナイフに由が目を見張る。
 「あぁぁぁあぁぁああああ!!??」
 痛みが来るのはその直後だった。
 火のような痛みに、由が体を前に突っ伏す。
 またしても、思考が追いつかない。
 思考を追いつかせる前に意識が飛びそうだ。薄れ行く意識の中、男が仲間らしい人影に話かける声が聞こえてきた。
「多少傷が入っても、生きて口を動かせりゃいいんだろ?じゃ、こいつを持っていくか。」
 面倒くさそうな男の声が、由には、それが死神の振る鎌の風切り音にしか聞こえない。
 自分は死の目の前にいる。そのことだけをはっきりと理解した由は、しょうがないとばかりに瞼を閉じた。
 「なにしてんだ!てめぇら!!」
 突如、遠くから驚きと怒りをはらんだ声が聞こえてきた。
 
 
 

 
 
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