やさしいだけじゃない。
「このリンゴは採れたてなのさ。

採れたてのリンゴは格別にうまい。

お嬢さんには今すぐそのおいしさを味わってほしいのさ」


「そう、ですか」


手元の赤いリンゴを見つめながら、私は頷いた。


「じゃあ、早速」


いただきます。


赤いリンゴが唇に触れた、その時。


「白雪姫!」


翠くんが息を切らしてこちらに向かっていた。


「翠くん?!」


リンゴを食べようとした手を下ろし、駆け寄る。


「どうしたの?」


翠くんは肩を上下させながら、私に言った。


「腕時計、忘れて、慌てて戻ってきたんだけど…」


それから私が手に持っていたリンゴを見ると、目を見開いた。


「それ、食べないで!」


「え?」


私は意味が分からず首を傾げた。


「食べないで、お願いだから」


「どういうこと?」


ますます意味が分からない。


これはおばあさんが私にくれた普通のリンゴ。


それなのに、食べるな、なんて。


「おや、酷いことを言うもんだねエ」


おばあさんはゆっくりした口調で言った。


翠くんは鋭く睨みつける。


それから翠くんは、私をおばあさんから守るように左手を広げた。


「ねえ、あんた、誰?」


聞いたことない翠くんの低い声に、心臓が恐怖で震えた。


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