憑代の柩
 



 流行は、
「これ見てください」
と言いながら、分厚い手帳から写真を出してくる。

「これが佐野あづさの中学時代です」

「――美人」

 そこには、今のこの顔とは、似ても似つかぬ、シャープで小顔な美人が制服を着て写っていた。

「……別人説が有力かしらね。

 この美人がこの顔に整形する意味がわからない」
と頬に手をやり言うと、

「ああ、いえ。
 充分、可愛らしいと思いますよ」
と言ってくれる。

「フォローはいいです。

 もうお気づきでしょうが、私、佐野あづさじゃないんです。

 あづさは教会で爆死しました。

 私は犯人を誘き出すために、整形させられた、ただの花屋の店員なんですよ」

「それは……」
と流行は言葉につまったあとで、

「大変でしたね」
と言う。

 そこでまた同じ疑問が頭をもたげる。

 自分の地位をかけてまで、あづさを殺した犯人を見つけようとしているのに。

 あづさに対する衛のあのクールさはなんなのだろう。
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