憑代の柩
 まあ、他に言いようはないだろうな、と思いながら、紅茶に口をつけた。

「しかし、死んだ人間をすり替えるなんて、また思い切ったことをしましたね。

 バレたら、御剣の総帥といえど、ただでは済まないでしょうにね」

「そうですね。

 病院ぐるみだからできたことでしょうけど」

 そこでまた同じ疑問が頭をもたげる。

 自分の地位をかけてまで、あづさを殺した犯人を見つけようとしているのに、あづさに対する衛のあのクールさはなんなのだろう。

「別人があづさになりすましていた。

 だとするなら、本物のあづさは何処に行ったんでしょうね」

「何処行ったと思います?」

「私なら、殺しときますけど?」
と言うと、探偵は、ひっ、と息をつめる。

「ああ、私ならって、私が犯人の立場なら、そのくらい周到にするという意味で。

 私がその立場だったら、そこまでするという意味ではありませんよ」

「その二つの違いがよくわからないんですけど~」
と探偵は己れの手を握り合わせ、前屈みに呟いている。
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