憑代の柩
 めんどくさいので、彼は置いておいて、自分の思考の行き着く先にだけ、神経を向ける。

「あづさ本人がこの顔に整形したとするのなら、それは何故かってことですよね。

 この顔、誰の顔なんですかね?」

 探偵は困った顔をした。

「同僚の調査はそこで終わってるんですよ」

「その先は調べてないんですか?」
と言うと、流行は、ちょっとだけ、と言ったあとで黙り込んだ。

 その目を見て嗤う。

「怖いですか?」

 彼の相棒はあづさの件を調べていて、失踪した。

 殺されたのかもしれないと彼は考えているようだった。 

 流行はテーブルに肘をつき、両の手で顔を覆ったあと、はあーっと深い息を吐き出した。

「いや。

 もし、殺されたのだとしたら、犯人は、佐野あづさだと思います。

 そのあづさがもう死んでいるのなら。

 何も恐れることはないはずです。

 でも――」

 何か気になるんです、と男は言った。
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