憑代の柩
「私も吹き飛ばされたショックで記憶がないんです。

 新聞で昨日、初めて自分の顔を見ましたよ」

 まるで他人のそれみたいでしたねえ、と顎に手をやり、呟く。

「そうですか。

 あの――

 ああ、あづささんじゃないんですよね。

 なんてお名前でしたっけ?」
と事件の資料を捜そうとする。

 死亡した花屋の店員の名前を見つけたいようだった。

 無能……。

「いいですよ。
 もういらない名前ですから。

 戻れる保証もありませんしね」

 すべての秘密を知る自分を衛は解放するだろうか。

 かと言って、婚約者として、彼の側に留まれるわけもない。

 自分は所詮、ニセモノなのだし。
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