憑代の柩
 先に奥の部屋に入りながら、

「犯人現れないですねえ。

 もう死んでるんじゃないですか?」
と言ってみる。

 適当な発言だったが、衛は何故か考え込んだ

「衛さん、実は犯人に心当たりでも?」
と言ってみたが、

「――いや」
と言う。

 まあ、この男の本心など、誰にも読めないか、と溜息をついてから言った。

「お茶飲みますか?

 それとも、ご飯でも?

 近くの商店街で訊いて、やっといい醤油が手に入ったんですよ」
と台所に向かう。 

 戻ってくると、衛はベッドに座り、あの資料を見ていた。

「あ、すみません。

 でも、貴方もご存知の内容かと思いまして」

「どうしてだ?」

「それ、某探偵さんからいただいたんです。

 私がさっき会ってた人ですよ。

 その報告は受けてるんでしょう?」

 脚を組んだ衛は、こちらを見上げている。
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