憑代の柩
「さあな。
 そういうのが僕の好みだとでも思ったんじゃないのか?」 

 衛の答えはあくまでも素っ気ない。

「要先生の好みではあるようですよ」

「なんでだ?」

「いや、なんとなく」

「要がお前に何か言ったのか?」

「いいえ。
 そういうわけではありませんが。

 でもまあ、佐野あづさの元の顔の方が美人ですよね」

「そこまで卑下する必要はあるまい」

 いや、卑下って……。

「まあ、どうでもいいですよ。

 もともと私の顔じゃないんですから」

 何度も繰り返した台詞をまた繰り返す。

 なんだか自分でも、だんだん負け惜しみのような気がしてきていた。

 意識を取り戻してから、この顔しか自分の顔として認識していないのだから、もうこれが己れの顔のようなものだ。
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