憑代の柩

 


 帰り道、車の中で、衛に言ってみた。

「夜の道は、いきなり車の前に、ぱあっと何か出てきそうで怖いですね」

「ロクでもないことを言い出すな……」

「ああ、生きてない人間ですよ」
と言うと、より、ロクでもない、と衛に言われる。

 その何か出てきそうな闇を見ながら言った。

「さっきまで、要先生と話してて。

 考えてみたんですが。

 咲田馨を殺したのは、要先生とは限りませんよね。

 貴方かもしれない」

 衛はアクセルを踏み込みすぎたようだ。

 慌てて、ブレーキを踏んでいる。

「危ないですね~」
と言うと、

「お前の発言の方が余程危ない」
と返された。

 衛は軽く舌打ちしたあとで、ハンドルを握り直し、体勢を立て直した。

「要先生は、貴方と馨さんの仲を疑っていた。

 本当のところ、どうだったんですか?」

「別に何も……」
と衛は小さく言う。
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