憑代の柩
「じゃあ、本当に、ただ、馨さんを殺した犯人を炙り出すために?」

 そう言うと、衛は少し黙ったが、こちらではなく、前を見たまま言った。

「今後、何かあったときのために言っておく。

 そのときだけ、思い返せ。

 本当は、僕が佐野あづさと結婚しようとしたのは、犯人を炙り出すためじゃない。

 すべてを知っていたからだ。

 ただの、贖罪だ」

 それなのに、あづさがあんなことになったから、どうしても、あづさを殺した犯人を挙げたかった、と言う。

「あづささんのこと、少しはお好きでしたか?」

 衛はその問いには答えない。

「ただ、……あづささんを利用しただけなんですか?」

 なんだかわからないが、胸が締めつけられた。

 同じ顔をしているせいで、あづさの魂が乗り移ったのかもしれないと、ふと思った。

 衛が車を止める。

「なんで、お前が泣く」

「いや―― なんででしょう。
 わからないけど」

 そのとき、見えた。

 夕暮れの光の中、何処かのドアを少し開け、こちらを見て微笑む女。
< 175 / 383 >

この作品をシェア

pagetop