憑代の柩
 ちょっとだけ手を振る。

 私と同じ顔立ちだが、雰囲気が違う。

 佐野あづさだ、と思った。

 これは、誰が見た映像なのだろうと思ったとき、唇に何かが触れた。

 衛だった。

「……あづささんには何もしなかったんじゃないんですか?」

「あづさには出来ない理由があったんだ」

「理由?」
と言ったとき、もう一度、衛が唇を重ねて来た。

 そのまま、抱き締められる。

 なんだか泣きたくなって。

 やっぱり、誰かが乗り移っている気がする、と思った。

 あづさだろうか。

 それとも、馨だろうか。

「衛さん、やっぱり、馨さんが好きだったんですか?」
と言うと、衛は、

「その顔で訊くな」
と言う。

「そうじゃなきゃ、こんなこと、しないでしょう?」

「……お前が今は、俺の婚約者だからだ」
と衛は言った。


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