憑代の柩
「先生、なんで、私を佐野あづさにしようと思ったんですか?」

 こちらの目を見て、要は嗤う。

「さあ……なんでだろうな」

「先生――

 いえ、なんでもないです」 

 言おうとして、やめた。

 先生、私が病院に居て、眠っていたとき、私にキスしましたよね、と。

 うとうととしていたとき、誰かが入ってきて、自分の側にずっと立っていた。

 やがて、顔の側に手を置き、唇を寄せてきた。

 あの匂いがしていた。

 要が風上に立つと香る、白衣に染み付いた、独特の病院の匂い――。

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