憑代の柩
悪い夢だ。
悪い夢か?
そうかな?
だが、何故、今、そんな夢を見るのか。
深夜、起き上がった衛は、部屋のドアが空いているのに気がついた。
自分で開けていたのだろうか。
帰って来たときの記憶がない。
ベッドの上で膝を抱えた。
誰も居ない暗い廊下に立つ女の幻が見えた。
にこり、と自分に向かい、微笑みかけてくる。
『衛くん』
だけど、それは自分の作り出した幻影だと知っていた。
自分には彼女たちのように霊は見えないし、それに――。
「現れるわけがない。
馨の霊が此処になんか」
立ち上がり、その幻に寄り添うように、廊下に立った。
己れの白い左手を見つめる。