憑代の柩
 目はしゃがんだままの男を見ていた。

 取って返し、さっき、男が開けようとしていた蓋を開けてみる。

 暗い。

「すみません。
 懐中電灯」

「玄関にあったか?」
と確認するように言い、取ってきた要がそれを渡してくれる。

 中を照らしてみた。

 埃もあまり積もっていないそこには何もなかった。

「何もないです、先生」

 要は、私が何を言いたいのかわからないようだった。

 私は蓋を開けたまま、飛び降りる。

「何もないんですよ、先生っ」
とその手に懐中電灯を押しつけるようにして、渡した。

「……相変わらず」

 なんだかわからない女だと言いたいようだった。
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