憑代の柩
 本田は前に座りながら、要領を得ないような返事をする。「遺書もあったし、警察はよく調べなかったんですかね」

「すみません。
 ちょっと話が――」

 頬杖をつき、そのコピーを見つめた。

「推測ですが。
 佐野あづさは、薬を使うつもりだったのでは」

「え。
 どういう意味ですか?」

「今朝方、某放送局の集金人が来ましてね」
と腕を組み、眉をひそめる。

「払ったんですか?」

「書類がないから、また今度でいいと言われました。

 いや、実は、問題なのは、そこんとこじゃなくては」
と言うと、『実は』はいらないだろう、という顔を本田はする。

「あづささんは、十八日には、もう此処から居なくなっていると彼に言っていたらしいんです」

 ……十八日、と本田は口の中で呟く。

「結婚式の前に、御剣邸に移るような計画もなかったようです。

 何故、あづさは、十八日と言ったのか」

 今、手にないものを見るように、広げた掌を見つめていると、本田がそれを窺っているのに気がついた。

「どうかしましたか?」
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