憑代の柩
いつの間にか雨は上がっていた。
本田はあの日見た夕暮れと同じ光の中を歩いて、隣町の駅前まで来ていた。
さっき、目を閉じていた彼女の表情を思い出す。
いつも静かに心の奥で、何事か思索している人間の顔だと思った。
あの外見と頓狂さに、それは見えなくなっているけれど。
最近、急速に寂れてきた気がする商店街の喫茶店で、高校の友人と待ち合わせしていた。
その友人が消防士になっていて、例の教会爆破事件のとき、消火に当たったと別の友人から聞いたからだ。
祖母が昔から通っているレトロな喫茶店を指定すると、彼の祖母もよくそこを使っているらしく、場所はわかるとすぐに了承してくれた。
「昔はよくあそこで奢ってくれてたんだよな~、冷たいものとか」
と寂しげに語る彼の祖母は、今は痴呆が進んで、施設に入っているのだと言う。
昔と変わらぬ高らかな鐘の音のするドアを開けると、すぐに友人と目が合った。
よお、と手を上げて来る。
軽く近況を報告し合い、すぐに本題に入った。
「ああ。
うーん。
そうだな」
と友人の口は重い。