憑代の柩
霊安室の遺体

 


 野菜をアパートに置きに行ったあと、私は要の病院へと向かった。

 自分が居た病棟の入り口から、堂々と入って行った。

「どうもー」
と笑顔で会釈しながら、受付を通ると、顔見知りの受付嬢は、どうもーと通してくれたから。

「……大丈夫か、この病院」

 御剣の一族が秘密裏に入院する病棟だと聞いていたのに。

 まあ、御剣衛の婚約者の顔をしているのだから、当然といえば、当然か。

 スタッフは私を本物の佐野あづさだと思っているのだから。

 そう。

 きっと、全員が。

 一階ずつ調べようと思ったので、階段を上がっていると、上の階に、具合の悪そうな中年の男が居た。

 太り気味の身体を手すりに寄りかからせている。

「大丈夫ですか?」
と声をかけると、男はびくついたように振り返ったあとで、

「おっ!」
と声を上げかけたので、慌てて側に行き、その足を踏んだ。

「おーっ!」

 余計叫ぶその口を手で塞ぐ。
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