憑代の柩
「眉墨という名は好きじゃないんだ。

 妻の名字だからな」

「養子さんですか?」

「……なんか文句あるのか」

「ありませんよ。
 懐の深い人だなあと。

 御剣に産まれたのに、わざわざ養子ですか?」

「金目当てだ」

 ストレートな人間は嫌いではない。

「糖尿ですか?

 隠れて甘いものでも食べてたんでしょう?

 今、貴方を抱えたとき、いい匂いがしましたよ」

 食べ過ぎて、具合が悪くなったか、腹が痛くなったのだろう。

 恐らく食事制限のために入院しているのだろうに。

 要に怒られるのが怖いに違いないと思った。

「何をニタニタ嗤っている。
 不気味な女め」

「人に担がれといて、よくそれだけ悪口雑言吐けますねえ。

 そういうとこは衛さんと似てますかね」

「何を、あの鬼子が誰に似てるものか。

 小さいときから落ち着き払っていて可愛くもない」

「そうですか?

 私は可愛らしいと思いますけどね」
と言うと、眉墨は黙ってこちらを見ている。
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