憑代の柩
「眉墨さん―― は、厭なんでしたね」

 眉墨は少し迷って、
「威(たける)だ」
と言った。

「じゃ、威さんでよろしいですか?

 なんだか一気に親しくなった気がしてしまいますが」

「お前のそのとり澄ました、よろしいですかってのを聞いたら、あの、よろしかったでしょうかとかいう訳のわからん言葉を思い出すな」

「あ~、なんか、そういうところで、バイトしたことがある気がしますね。

 こちらでよろしかったでしょうか~」
と空いている方の手を広げて見せると、威は呆れたようだった。

「なんて緊張感のない女だ。

 それにしても、ほんとに生きていたとはな」

 よく助かったな、と横目に見られる。

「いや、結構大変だったんですよ。

 記憶も飛んでますし」

「そうか。
 まあいい。

 わしは事件になど興味はない。

 こちらの株にまで影響が出なければ、どうでもいい。

 親族の誰がお前を殺そうとした犯人でも表沙汰にはするなよ、お嬢ちゃん」

 眉墨は自分の病室まで来たのか、勝手に手を離すと、よろよろと戸を開け、入って行った。
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