憑代の柩
 


 何が、新婚さんみたいですね、だ。

 あいつの神経は何処か焼き切れている、と思いながら、前を見る。

 硬い靴音。

 階段を若い男が上がって来るのが見えた。

 茶髪の短い髪で、片耳にイヤリングをやっている、長身の男。

「八代」

 こちらをあまり見ない彼に、呼びかける。

 彼は何も言わずに、ドアを開け、一瞬だけ、眼を合わせ、頷いた。

 そのまま、閉まる。

「……八代の助手ね。

 あの間抜けめ」

 そう呟き、そのまま階段を下りていった。



< 281 / 383 >

この作品をシェア

pagetop