憑代の柩
朝っぱらから隙もなく整った御剣衛の顔を見ると、不快になるのは何故だろう。
男なら誰でもかもしれない。
あんな風に、自分はなれないと思うから。
律した生活をしていても、決して、彼には敵わないのだと思い知らされたばかりだ。
八代が閉めたばかりのドアの前でそんなことを考えていたとき、チャイムを鳴らす音がした。
「回覧です~」
ないだろうが、回覧っ。
このアパートは自治会に入っていない。
困った助手はドアを叩き出した。
仕方なく開けると、相変わらずの間抜け面が覗いた。
「用もないのに来るな」
「用ならありますよ。
結婚式、決行になりました」
「知ってる」
と言う自分に、
「盗聴器ですか?」
と廊下を塞ぐように立っている身体の向こうを見て、中を窺う。
「そんなことしなくても、此処は壁が薄いんだ、気をつけろ。
流行が押し入れの中で、ぶつぶつ言っているのまで聞こえてた」