憑代の柩
 あいつは早く出してよかったと思う。

 きっと、あと一歩で、鬱になるところだった。

 それにしても、流行が彼女の存在を知らなくて幸いだった。

 あの男はよくも悪くも嘘をつけないから。

 だからこその使い道もあるのだが。

 一緒に動くとき、自分の相方に何も知らせないことで、こちらも何も知ってはいないと敵に思わせることができる。

 今、目の前に居る彼女は、気をつけろの意味がわかっているのかいないのか。

「何処に行ってたんですか?」
と訊いてくる。

「朝食を買いにだ」
と言いながら、廊下付近で話すのもどうかと思い、仕方なく、中へと通した。

 ついてきながら、彼女は、

「ああ。
 さっきまで、衛さんが居たから、此処、見張ってなくてもよかったですもんね」

 しれっとそう言う。

 なんだか溜息をつきそうになった。

「お前の言う通り、お前は少し壊れている」

「他人から言われると、少々ムカつきますが」

 彼女はあまり窓辺近くに寄らないようにしているようだった。

 自分と接触しているところを警察や、まだわからない犯人に知らせたくないのだろう。
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