憑代の柩
『何かあったんですか』
と最初は、何も知らない隣人を装って。

 奏は何も話さなかった。

 当たり前だ。

 彼女に気づかれないよう、接触しないようにしていた隣人なのだから。

 奏は、死体を隠した。

 そのうち、腐臭がするようになった。

 なんとなく、奏が哀れで、衛には黙っていた。

「それから――」

 八代はそこで、言葉を止める。

「それから?」
と彼女は残酷なまでにあっさりと訊いてきた。

「死体を始末してやった」

「……でしょうね。

 衛さんもそれを疑って、貴方に連絡をとってきたんじゃないですか?

 なんて答えたんです?」

「何も知らないと言った」

 その辺から既に問題だ、と眉をハの字にしていた。

「奏には不審に思われたんじゃないですか?」

「いや」

「なんでです?」
と窺うように彼女はこちらを見ている。

 すべてを話すべきなのか。
< 287 / 383 >

この作品をシェア

pagetop