憑代の柩

 


 彼女はよくわからない風な顔で、こちらを見ていた。

「ともかく、俺は探偵はもう廃業する」
と盗聴器を袋に投げ入れると、

「駄目ですって!」
と彼女はこちらの手を掴んできた。

 らしくもなく、びくりとする。

 その小さな顔を見下ろし、言った。

「俺は奏に訊いた。
 誰か一人殺してやろうかと」

「……なんだってそんなこと」
 呆れたように彼女は見る。

 それには構わず続けた。

「御剣衛か、咲田馨か」

「奏は知ってたんですか?
 咲田馨が生きていることを」

 そう彼女は驚いた声を上げる。

「知っていたようだ。
 いつ気づいたのか知らないが。

 ファミレスで見たのかもしれないな。

 だからこそ、奏は追いつめられていた。
 ホンモノがすぐそこまで来ていることに」

 彼女は唇を噛み締める。

「俺は何も出来なかっただけでなく、余計なことまでした。
 依頼人の期待も裏切った」
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