憑代の柩
「……奏が死んだから?」

 いや、と言ったあとで、溜息をつき、

「いいから戻れ。

 あまり長く此処に居るのはまずい」
と言うと、そうですね、と己れの部屋の方を見て言った。

「まあ、また来ます。

 晩のおかずを作り過ぎたので、お隣さんにお裾分けに来たって設定で。

 いつもコンビニで買って食べてるお隣さんが哀れで」
と余計な一言を付け加える。

 彼女はすぐ隣の部屋に戻ったが、支度をして、出て行ったようだ。

 大学に行ったのだろう。

 そのあと、衛とドレスを見に行くのではないかと思うが。

 自分も彼女を追わなければ、と思い、少しずらして外に出た。

 記憶が戻っているのなら、多少の護身術は心得ているだろうし。

 なにより、彼女は勘がいいので、実のところ、あまり心配はしていなかった。
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