憑代の柩
 自分の方が余程、弱っていたらしい。

 廊下に出た途端、無防備に、ぎょっとした顔をしてしまう。

 自分より少し小柄で、ぼさぼさとした茶髪の男がすぐ目の前に立っていた。

「……流行」

 要と行ったのではなかったか、と思いながら、その横をすり抜けようとする。

「あまり此処らをうろちょろするな」
と言うと、彼は言った。

「『佐野あづさ』を見たよ」

「なに?」

 この間の話かと思ったが、違うようだった。

「あのファミレスの近くで張ってたら、現れた。

 佐野あづさ、というか、咲田馨の顔をした女に。

 あれがホンモノの咲田馨なのか?」

「……いつだ?」

「早朝五時くらいかな。

 あのファミレスの前を通って行った。

 ちらとファミレスの方を見上げていたけど」

 そうか、と行こうとすると、止められる。

「なあ。
 お前、なんで、死体を始末してやったんだ」

 その言葉に息を止める。

 何故、流行がそれを知っているのかと思ったのだ。 
< 293 / 383 >

この作品をシェア

pagetop