憑代の柩
 だから、はなから、御剣衛が、彼女を馨と重ねて見ているはずはなかったのだが。

 奏にはそれがわかっていたのか、いなかったのか。

 姉の身代わりだと思って苦しんでいたのか。

 身代わりにもなれないことを苦しんでいたのか。

 衛は本当に、奏には、指一本、触れることもなかったそうだ。

「流行。
 お前、今、暇なのか?」

「知ってるだろう。

 お前と違って、かなりの確率で暇だ。

 近所のペットが行方不明になったり、夫婦喧嘩が始まったりしない限りは」

「じゃあ、俺がお前に依頼する。

 あのファミレスを張っておけ。

 咲田馨の顔をした女は、きっとまた現れる」

 そう言うと、なんだかわからないような顔をしながらも、いつもの癖なのか、わかった、と言っていた。






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