憑代の柩
 

 大学に行った私は、欠伸をしながら、廊下を歩いていた。

 が、突然、襟首を掴まれる。

「くえっ」と絞められた瞬間のニワトリのような声を上げながら、角へと引きずり込まれる。

 ついに、犯人が、と思う間もなく、目の前に女の集団が現れた。

 或る意味、犯人より怖い。

「あの~、なんですか?」
と腰低く訊くと、いつぞや、水をかけてきた女が言った。

「あんた、明日、結婚式を予定通りやるってほんと?」

「――の、予定ですが」
と言うと、彼女らは、きゃーっと声を上げる。

 なんなんだ、と思っていると、早口にまくし立ててきた。

「式、見たいんだけど。

 教会でやるんでしょ?
 外から見ててもいいかしら?」

「そ、外から?
 なんでまた」

 要たちは招待することにしたから、一緒に入れないこともないのだが。

「いやね。
 式に出てる御剣さんを見たいのよ」
と彼女らは、うっとりと言う。
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