憑代の柩
 確か、水沢とか言ったその女は、やけに真剣な顔で訊いてくる。

「あんた……死ぬ気なんじゃないでしょうね」

「一応、その予定はありませんが。

 まあ、状況により、わかりませんけど」

 茶化すなという顔で、何か言おうとした彼女に微笑みかける。

「出来るだけ死なないようにしますよ。

 どんな人間でも、周りで人に死なれて寝覚めが悪くない人間は居ませんからね。

 貴女もでしょう?」

 彼女はわざと関係ない、という風な顔を装ってみせる。

 だが、それは照れ隠しなのだとわかっていた。

「水沢さん。
 もし、戻ってこれたら、カラオケにでも行きましょう?

 そのとき、私は、佐野あづさではないし、この顔でもないかもしれませんが」

「あんた――

 初めて私の名前、呼んだわね」

 そう言われ、
「貴女も私を名前で呼んでませんよ。

 あんた、とか。
 ちょっと、とかしか聞いてない気がしますが」
と笑う。
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