憑代の柩
 私は仮に持たされた造花のブーケを握り締め、彼を見上げた。

 すぐに目を伏せ、笑った私を不満そうに衛が見る。

「なん……。

 なんだ?」

「いや、別に。
 行きましょうか?」

「何処に?」

「付いてきてくださったお礼に。

 お茶でも奢りますよ」

「それは、僕が渡した金だよな」

「出所うんぬん言うなんて、金持ちらしくないですね」
と笑ってみせる。

 支払いを済ませ、ドレスは直接、教会に送ってもらうようにした。

「持って行った方がいいんじゃないのか?」

「なんでですか。
 邪魔じゃないですか。

 ああ、今度は、ドレスに爆弾が仕掛けられてるかもとか思いました?」
と言うと、厭な顔をする。

「礼だと言うのなら、ちょっと付き合え」

 先に立って、ガラス戸を開けながら、衛は言った。

「行きたい店があるんだ」

 その背を見ながら、少し遅れて歩き出す。

 あの黒髪で、背の高いサラリーマンはもう居なかった。




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