憑代の柩
衛は車を例のファミレスの近くで止めた。
斜め向かいの雑居ビルの駐車場に入れる。
「あの~」
「なんだ」
「このエレベーター、今にも止まりそうですね」
違うことを言いたかったのだが、誤摩化そうとして、本音が出た。
衛が厭な顔をする。
古いビルに古い小さなエレベーター。
中に敷かれた朱いカーペットもかなりくすんでいる。
四階で衛が降りる。
アンティークな黒塗りのドアが現れた。
その向こうに、小洒落た喫茶店の店内が広がっている。
「こんなお店があったんですね」
「たまたま気づいたんだが、眺めもいい」
衛が入って行くと、上品に髭をたくわえた男がすぐに近づいてきた。
蝶ネクタイがわざとらしくない紳士風の初老の男だ。
「お久しぶりです。
いつものお席で?」
いつもの席?
衛が頷くと、窓際の席に通される。
なんとなく、窓の下を見た。
あのファミレスが見える。