憑代の柩
 掠れた声で訊いてきた。

「男を殺したからか?」

「本当にしょうがない人ですね」
と優しく悟らせるよう言った。

「貴方が好きだからですよ」

 衛は唇を噛み締める。

 彼自身、思うところはあったのかもしれない。

 だが、その疑いを否定し続けていた。

 一歩近づく。

「男を殺したことも後押ししてるとは思いますけどね。

 まあ、どちらかと言えば、死ぬつもりだったから、男を殺しておこうと思ったのでは」

「殺しておこう?

 なんでだ?

 あづさに関係のある男が近づいて来たとしても、死ぬつもりなら、避け続けていれば済むことだろう」

「それに関しては、もう少ししたら、わかると思いますね」

 衛は窺うようにこちらを見ている。

「貴方は本当に莫迦な人です

 貴方は、自分のせいで消えた咲田馨の妹のために、おとなしく殺されるつもりだったんですか?」

 衛の口が震えるように動いた。

 馨の名を呼ぶ。
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