憑代の柩

 


 要は衛の屋敷の自室に居た。

 椅子で仰向けになり、古臭い本の匂いを嗅ぎながら、眠っていた。

 顔の上にあったそれがふっと除けられる。

 楽になったのに、目が覚めるというのも不思議な話だ。

 女が笑顔で自分を見下ろしている。

「またそんな寝方してると、首を痛めるわよ」

「……馨」
と呼びかけた。

 衛は今、居ないなはずだ。

 どうやって入って来たのかと思ったが、彼女の背後に福田が控えていた。

「なるほど……」
と呟く。

「この本、まだあったんだ」
と彼女はページを捲りながら笑う。

「これからどうするんだ?」

 そう訊くと、彼女はちょっと笑って、背後から首に手を回してきた。

 そのまま絞める気かと思ったが、頭を寄せてくる。

 これで最後な気がした。

 俺を恨んでいるかと訊こうかと思ったがやめた。

 まあ、恨んでいるだろう、と思ったからだ。

「俺は病院を辞める。
 お前は衛のところに戻るといい」

「本気で言ってる?」
と言われ、……いいや、と言うと、笑っていた。
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