憑代の柩
 


 抵抗するつもりはなかった。

 いっそ、殺された方が楽なような気がしていたから。

 でも、苦しさから、つい、その大きな手に爪を立てる。

 何度も自分に触れてきたその手に。

 要は途中で手を離した。

 私は草むらに倒れ、遠ざかる足音を聞いていた。

 私の意識はまだあったし、要にもそれはわかっていたと思う。

 だが、彼は私を置いて、立ち去った。
 


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