憑代の柩
朝だ。
今日は私の結婚式だ。
ドレスはもう教会に届いている。
身支度を済ませ、ふと洗面所から廊下の窓を見た。
そして、そこに踞っている男に溜息をもらす。
「あの、私、もう此処には帰ってはこないと思いますが。
成仏、されないですか?」
すると、男は初めて言葉を発した。
『……うち、神道だから』
「そうですか。
すみません」
と苦笑いする。
余計なお世話だったようだ。
だが、次の瞬間、男は消えていた。
いきなり成仏したのだろうかと思っていると、男はあの押し入れの前に居た。
そこを指差す。
「え、まだ何か居ます?
霊とか」
男がずっと指しているので、その前に膝をつき、開けてみた。
奇麗に何も無い。
八代が後始末したのなら、まあ、そうだろうと思っていた。
だが、男はまだ指差している。
その指を追うようにして、横の三段ボックスを見た。
厭だが、中に入る。
男の指差す場所。
三段ボックスの引き出しの間に何か挟まっているようだった。
「あ……」