憑代の柩
終章 帰り道
 


 今日はいい天気だなあ、と爆発のせいで、薄汚れた控え室の窓を見上げる。

 髪を結ってくれている麻紀が言った。

「なんで美容師雇わないのよ。
 天下の御剣の花嫁の結婚式なのよ」

「招待客は貴方がただけですよ。

 まあ、怪我させちゃ悪いんで、迂闊に人は呼べないですしね」
と言うと、麻紀は眉をひそめた。

「まあ、麻紀さんも出来たら逃げてください」

「厭よ、莫迦じゃないの。
 このドレス、まだ衛に見せてないのよ」

 少し笑い、

「ありがとう、麻紀さん」
と肩に置かれた白く長い指に触れる。

「何よ。
 死にに行くみたいね」

「或る意味そうですね。
 今日でお役御免ですから」
と言うと、麻紀はポーチから何を取り出す。

 奏のことを思い出し、なんとなく身構えてしまったが、麻紀は何かを書きつけた紙をくれた。

「私の携帯の番号。
 暇なときには電話しなさいよ」
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