憑代の柩
 開いたままのドアのところに、帽子を目深に被った女が立っていた。

 ウェーブのついた茶髪系のセミロングの髪。

 腰に巻いた深緑色の短いエプロン。

 顔を上げた彼女は、くるりとした瞳をしていて、写りの悪い新聞の写真より遥かに愛らしい。

「すみません。
 サインいただくの忘れてました」
と微笑む。

 彼女に近づき、現実にはもうないそのペンを受けとる仕草をし、サインして見せた。

「ありがとうございます」
と彼女は笑って、頭を下げた。

 そのまま廊下を戻って行ってしまう。

 頭の上の天井がないことにも気づかずに。

 黙祷するように目を閉じたが、ふいに強い人の気配を感じ、目を開けた。

 同じ場所を見た要が驚く。

「どうして――」

「私が呼びかけたから、この間」

 要はこちらを見ないまま、

「莫迦か、お前は……」
と言った。
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