憑代の柩
偽りの婚約者
いい風だなあ、と思いながら、ベッドの上の私はその風を追うように振り返った。
だが、本当にそちらに窓があるのかはわからない。
仰々しい包帯で、目を覆われていたからだ。
「以上、僕の言っていることが理解できたのなら、見てもいいぞ、お前の顔」
どうして貴方はそう偉そうなんですかね?
ベッドの右横に立つ男に、そう突っ込みたかったが、この俺様なおぼっちゃまにそんなことを言ったら、恐ろしいことになるのはわかっていたので、黙っていた。
いや、黙っていようと思っていた。
しかし、反射で言い返していた。
「自分の顔見るのに、許可がいるって、なんかおかしくないですかね?」
声がする方を向き、そう発言した途端、目まで包帯で覆われているのに、殺気を感じた。
声の主は、御剣衛(みつるぎ えい)。
一度もその顔を拝んだことはないが、かなりの男前だとわかる。
そのしゃべり方や高慢な態度は、地位や財産からだけでなく、ちやほやされてきた人間特有のものだからだ。
恐らく、細身で繊細な美貌の持ち主だろう。
偉そげにしゃべるわりに傷つきやすそうだ。