憑代の柩
今日は授業はあまりなかったので、すぐに大学を出た。
麻紀とも本田とも会わなかったので、誰ともしゃべらず帰って、たまには真面目に晩ご飯など作ってみることにした。
そうそう衛も来てはくれまいし。
要先生も忙しそうだ。
麻紀さんは連絡先知らないし、下手な呼び方したら、噛み付かれそうだし。
知り合いの少ない場所で暮らすのはやっぱり寂しいなと思いながら、夕食を作ろうとしたのだが、すぐにまた買い物に出る。
醤油が気に入らなかったからだ。
あづさの部屋にあるものは、使ったら悪い気がするのと、危ない気がするのとで、調味料もすべて新しいものを買い揃えていた。
しかし、スーパーで買った醤油がどうも気に入らず、小さな商店の方がいいのがあるかもと思い、買いに出たのだ。
相変わらず、胸が痛くなるほどの長閑さを見せる夕暮れの町並みを見下ろしながら、歩道橋を渡っていた。
だが、ふと気づき、走り出す。
歩道橋の下りの階段に駆け込んで、そのまましゃがんだ。
「わああああっ」
目の前で男が凄い悲鳴を上げ、転がり落ちていった。