憑代の柩
 途中で、なんとか手すりを掴み、留まったようだ。

 男は打った膝を押さえながら、こちらに文句をたれてくる。

「あいたたたっ。

 ちょっと!
 なにすんですか、あんた!」

 私はしゃがんだまま、男を見下ろし、

「すみません。
 まさか転げ落ちるとは。

 いえ。
 助けようとは思ったんですけどね。

 ちょっと何か思い出しかけて」
と答える。

 男は、まったくもう~っ、と言いながら、上がって来た。

 彼を見上げ、
「威張れる立場ですか?」
と言うと、男は軽く頭を掻いて、素直に謝る。

「すみません。
 貴方の後をつけてました」

 ですよね、と溜息をつき、立ち上がり、スカートをはたいた。
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