憑代の柩
 流行は運ばれて来た珈琲を見つめ、

「僕は個人的に、消えた仲間を捜してるんです」
と言い出した。

「仲間?」

「一緒に事務所をやってた男です。
 そいつは、佐野あづさという女性について調べていました」

 私は小首を傾げるようにして問う。

「御剣の親族の依頼?」

「誰からかは、僕にもわからないんですけどね。
 僕ら別々に仕事を受け持つことが多いので。

 それぞれの顧客も別ですし。

 まあ、同じ軒下に居て、たまに協力し合うくらいの関係なんです」

 ふうん、と紅茶に口をつけながら相槌を打つ。

「でも、今の、おかしな言い回しですね」

「え?」

「私に向かって、
『佐野あづさという女性について』
 って言い方は妙だと感じましたが」

「そうですね」

 一瞬、下を向いた流行は、覚悟を決めたように顔を上げ、こちらを見た。
< 98 / 383 >

この作品をシェア

pagetop