憑代の柩
「貴女に不思議な二面性がありますね。
穏やかな笑顔で口調もやわらかいけど、鋭く何も見過ごすまいとしているように見える。
詰問されている感じがします」
そう一息に言ったあとで、男は訊いた。
「貴女、本当に佐野あづささんなんですか?」
「どうしてです?」
「佐野あづさって、こういう顔じゃないんですよ」
と言いながら、こちらを手で示す。
「え――
でも、大学でもこの顔で通りましたけど?」
多少言動や雰囲気がおかしくても、みなが自分をあづさだと認めたのは、顔が同じだったからのはずだ。
だが、男は唾を呑み、黙り込んだ。
「すみません。
あの、貴女、誰なんですか?」
「だから――
佐野あづさですよね?」
男は額に手をやり、しばらく俯いていた。
「いや、幾ら僕が無能でも、今の遣り取りが噛み合ってないことくらいはわかりますよ」
ああ、自覚はあるんだ。
じゃあ、そんなに抜けているわけでもないかと思う。
一番タチが悪いのは、自分が切れないことがわかっていない人間だ。
穏やかな笑顔で口調もやわらかいけど、鋭く何も見過ごすまいとしているように見える。
詰問されている感じがします」
そう一息に言ったあとで、男は訊いた。
「貴女、本当に佐野あづささんなんですか?」
「どうしてです?」
「佐野あづさって、こういう顔じゃないんですよ」
と言いながら、こちらを手で示す。
「え――
でも、大学でもこの顔で通りましたけど?」
多少言動や雰囲気がおかしくても、みなが自分をあづさだと認めたのは、顔が同じだったからのはずだ。
だが、男は唾を呑み、黙り込んだ。
「すみません。
あの、貴女、誰なんですか?」
「だから――
佐野あづさですよね?」
男は額に手をやり、しばらく俯いていた。
「いや、幾ら僕が無能でも、今の遣り取りが噛み合ってないことくらいはわかりますよ」
ああ、自覚はあるんだ。
じゃあ、そんなに抜けているわけでもないかと思う。
一番タチが悪いのは、自分が切れないことがわかっていない人間だ。